アウシュヴィッツの歯科医(紀伊国屋書店)

「アウシュヴィッツ」と言う単語に比して肩の力の抜けたような可愛らしいイラストのカバーが印象的な『アウシュヴィッツの歯科医』。冒頭の写真を見た途端に胸がつぶれるような思いになります。ユダヤ人である著者は1941年に収容所に送られます。その彼の命を救ったのは母が持つことを強く勧めた歯科医療用の小さな箱でした。少しでも巡り合わせがずれていたらいつ死んでしまっててもおかしくなかった出来事が次から次に起こります。著者の献辞にある「みずからの物語を語ることがかなわなかったすべての人たちに」という一文の背後に何百万という死を想起させますし、またいつ自身がそちらの側になっていてもおかしくなかったという実感を感じさせます。

戦争が一体何を生み出すものなのか、読み手の胸にナイフよりも鋭い何かで問てくる一冊です。本のカバーを剥いた後に出てくる表紙から裏表紙に刻印された数字の意味に改めて恐怖します。

余談ですが72年前の本日310日には東京大空襲がありました。戦争で一番被害にあうのは名もなき僕らや貴方であると店主は思います。